音楽/星の王子の・・初演記

皇后陛下の御前で演奏 その4

コンサート終了後、まだまだ緊張が解けません。

これから貴賓室に行って、皇后陛下に拝謁することになっているからです。楽屋に楽譜と指揮棒を置き向かいます。が、向かおうと廊下を歩くと、SPの人にブロックされてしまいました。

「これから拝謁するよう、言われているのですが・・・」
「(毅然と)確認しますので、お待ちください」

私はタキシードを着ているので、分かるはずで、厳しいなあとは思いましたけど、万が一のトラブルも避けなきゃいけないわけですから、当然のことですよね。仕事をきっちりこなされている姿に、ちょっと感動しました。実を言いますと、私の祖父が明治天皇のSPだったんですよ。剣豪だったらしいです。私も子供の頃、剣道をやらされましたけど、そっちの筋は悪いらしく、今、剣を握るはずが、指揮棒に変わってますが(笑)確認を取っている間、SPの人にその話をしたら、少し和んでくださって、ちょっと嬉しかったり。

確認が取れたので、通され、いよいよ美智子様に拝謁です。

もの凄い緊張で、どうしたらいいのだろうと、ビクビクしてたのですが、お部屋の中に入ると、なんとなく温かい感じがします。

あ・・・・美智子様だ。。オーラが出ています。

客席にいらっしゃるときには、よく見えなかったのですけど、淡いピンクの、桜の花びらが刺繍されたお着物でした。帯も、満開の桜の木が刺繍されたもので、とても素晴らしい。

部屋には、宮内庁の方を含め10人くらいでしょうか。飲み物を出されたのですが、緊張で喉を通らないかもということで、遠慮したのですが、美智子様は既にコップを持っていらっしゃるし、宮内庁の方も「気楽な雰囲気でよろしいのですよ」と言ってくださったので、逆に持っていないのも悪いような気がして、グレープフルーツジュースをいただきました。(めちゃくちゃ美味しかった。)

さて、美智子様を囲むように立っていたのですが、美智子様は一人ずつお話をされていく様子です。園遊会を頭に浮かべてもらえばいいですかね。最初の方に話しかれられたのですが(私は4番目に立っていた)、一言二言お話をされるだけかと思ったら、そんなことはない。皇后になるような方ですから、すごく教養があるのだろうなとは思ってましたが、知識・話題が豊富で、お話をされている方の専門分野のことに関して、どんどんディープに話していかれます。しかも、相手の話を引き出すのがもの凄く上手い。いきなり圧倒されました。

私の隣(3番目)がロンドン大学の教授だったのですが、彼なんかは、矢継ぎ早に色々聞かれてしまって、タジタジになってました。私がそんなにされたらどうしよう。。私のときは、すっと過ぎていただけないかな・・・と、思っていたら、遂に順番が。。

ドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキ

まずは「今日は私の歌を演奏してくれてありがとう」と、お礼を言われたのですが、もう頭がぽわ~~~んとなってしまったので、なんと答えたか覚えていません。それから、私自身のこと、合唱団のことを聞かれ、なんとか答えるという感じでした。これで終わってくれないかなと思っていたら、まだまだ序章でした。演奏した曲の感想を述べられたり、特に「相聞」が気に入られた様子で、その話で盛り上がり、私が答えに窮したときは、近くにいらっしゃった藤原先生がフォローをいれてくれたりと、私の前をなかなか離れません。都合10分くらい、私の前におられました。でも、お話をしていると、なぜか気持ちが落ち着いてきたのですよ。これも美智子様の人徳なのでしょう。段々幸せな気分になってきました。部屋の雰囲気も和やかになり、美智子様も気さくで、ときどき冗談も言われたり、すっかりペースに嵌まってしまったように思います。

ようやく、次の方に移り、ほっと一息。美智子様は一通りお話をされた後、しばらく主催者の内藤先生・奥さまとお話になり、宮内庁の方が、「もうそろそろ・・」と声を掛けられたところで、終了。美智子様は、改めて一同にお声を掛けられ、退室されました。30分以上は部屋の中にいましたか。こうして、一世一代のイベントは終わったのでした。いや、もう思い残すことはないです。明日死んでも悔いは無いです(笑)

このあと、合唱団で打ち上げをして終了。20:30だったかな。こうして、長い1日が終わりました。

最後にですが、今回ご縁があって、私が指揮をするという名誉をいただいたのですが、それもこれも、Iさんご夫妻のおかげで、感謝してもしきれないくらいです。この場を借りて御礼申し上げたいです。今回のことを振り返ってみるに、一つ一つの縁を大切にし、その信頼を裏切らないよう生きていくことの大切さを学びました。また一回り成長できたかな。できていればよいのだけれど。


終わり

※紹介された新聞などの報道記事(Iさんご提供)
「20060326.pdf」をダウンロード

※「星の王子の・・・」の楽譜について
歌曲の楽譜につきましては、内藤初穂著「星の王子の影とかたちと」 (筑摩書房)の巻頭に掲載されております。(日本音楽著作権協会(出)許諾第0600628-601号)
また、今回演奏しました女声合唱版(編曲:藤原義久)の楽譜につきまして、出版の予定など詳細は分かりません。また、著作権法上、楽譜を複製等でご提供することはできませんので、私へのお問い合わせはご容赦くださいますよう、お願いいたします。

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皇后陛下の御前で演奏 その3

舞台袖に移動したときに、報告が入ってきました。

「OK」

よかった。これで心置きなくできます。

いよいよ出番です。合唱団を入場させ、私も舞台に出て行きます。不思議と緊張しなかったんですよね。客席を見ると、淡いピンクの着物を着た美智子様が眼に入ってきました。が、あまり気になりません。挨拶をした後、合唱団の方を振り向くと、みんなの顔がこわばっています。まずいな・・と思い、笑顔を作るよう合図をし、1曲目に入りました。

1曲目の「相聞」は、内藤濯がフランス留学をしたとき、日本で留守を守る奥様との詩をやりとりを曲にしたものなのですが、鐘の音の後奏が印象的な、とても良い曲です。演奏時間は短いのですが、今後多くの機会に歌われる曲になるのではないでしょうか。お気に入りです。

2曲目の「月光」は、サン=サーンスの歌曲なのですが、内藤濯が日本語訳したものです。どうして、このような名曲が埋もれていたのか不思議なくらい、和声が綺麗な素晴らしい曲です。少し日本語が古く、いまひとつ歌詞の意味が掴めなかったため、高校で国語の教師をしている弟に現代訳をしてもらったという経緯があります。ただ、歌詞の言葉の選択や並べ方は素晴らしく、曲に合っています。これも今後多くの機会で歌ってほしい曲ですね。

3曲目のシューベルトの子守唄。「ね~~むれ~~ ね~~むれ~~~」で有名な、誰でも知っているであろう曲ですが、この訳も内藤濯なのです。あるきっかけで、この曲の歌詞を調べたのですが、2番の最後が、今の楽譜では「眠れよや」となっています。が、オリジナルは「眠れやよ」であることが判明しました。知っておくとよいかもしれません。

3曲目まで無事に終わり、いよいよ最後の曲「星の王子の・・・」です。

この曲は、伴奏がとてもシンプルに出来ているので、逆に難しい。メロディは、とても優しく・美しく、フランス風の音楽のようです。と、文字で言っても伝わらないのでしょうが(笑) 楽譜は、筑摩書房から出版された、今回の会の主催である内藤初穂先生の書籍「星の王子の影とかたちと」に収められており、著作権協会の登録もされているようなので、興味のある方は、見てみてください。
元々は歌曲なのですが、今回の初演は、藤原先生が女声合唱に編曲したものを演奏しました。構成の前半部分は、最初は全員のユニゾンで歌うようになっていたのですが、元々は歌曲であることを考慮し、藤原先生と相談し、メッツォソプラノのソロにしました。このほうが結果的には良かったと思ってます。後半部分は、女声3部合唱で、メロディを各声部に分割して歌わせつつ、ハーモニーを作っていきます。

演奏はあっという間でしたけれど、この歌を世に出すという重責を無事終えることができました。

いつもの演奏会であれば、指揮棒を譜面台に置き、挨拶して、カーテンコールを何回かやって終わりなんですが、まだ、重要なお仕事が・・

客席の方を向き、作曲者の紹介をしなければなりません。私が美智子様に手を差し延べる仕草をすると、多分、お付の方は紹介があることをわざと黙っておられたのでしょう、ちょっと驚かれたご様子で、しかし、すぐその意味を察しられたようで、すくっと席をお立ちになり、挨拶をしてくださいました。会場は割れんばかりの拍手。最初は無理だと思っていましたが、やってよかった。

アンコールとして、もう1回「星の王子の・・・」を演奏し、会は無事に終了。会場の雰囲気もあたたかく、とても良いコンサートになったと思います。

いつもの演奏会であれば、着替えて、よっしゃ~~飲みに行くぞ!!となるのですが、今回は、ある意味もっとも緊張することが待っていたのです。


続く

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皇后陛下の御前で演奏 その2

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早速ホールに移動。新しい携帯を買ったので、写真が撮りたくて、またまたパチリ(ミーハーな自分がいる)。11時20分からリハーサル開始です。(下のリハーサル風景は、Iさんよりいただきました。)この会場で演奏するのは初めてなのですが、意外に響きがデッドだったので不安になったけれども、隊列を弧にしたこともあってか、客席で聴いてみると結構良い感じだったので、一安心。ただ、ピアノがスタインウェイのフルコンだったので、鳴りが大きく、その調整が難しい。
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今回はテレビ神奈川のアナウンサーの司会が入るのですが、とても良い方で、演奏とMCの絡みを良い方向に持っていくために、その場で色々言ってしまったのだけれども、柔軟に対応してくださり、感謝。機転が利く人と仕事をするのは楽しい。良い会になると確信した。結局、「相聞」・「月光」・「子守唄」をまとめて紹介してもらい演奏をし、一度挨拶。その後に「星の王子の・・・」の紹介をしてもらい、演奏をすることになった。バッチリまとまった感じがする。今回のステマネのSさん(主催の関東学院の方で、とてもお世話になった。)、それと前記したIさんも、手ごたえを掴んだような顔をされていたので、よかった。この段階では、曲想に関しては確認のみ。当日ごちゃごちゃやるのは好きではないので、リハーサルはあっさり終了。あとは本番を楽しむだけ。

芸大美術館下のレストラン(学食?)に移動し、昼食。会自体は13:30に始まるのだけれど、会場は、音を出す部屋もないし、警備の都合上、会場への出入りが厳しいため、15:00までは、別の会場で待機する。といっても、やることもないので、自由時間にした。近くにある寛永寺を見、国会図書館付属のこども図書館で「もじゃもじゃペーター」の特設展をやっていたので行ってみました。「もじゃもじゃペーター」は色んな意味で凄い(笑)

15:00に待機場所を出て、再び奏楽堂へ。すでに美智子様は到着されているようで、SPの数の凄さに驚く。そういえば、あのあたりはブルーシートの密集地帯なんですけれど、見事になくなっていました。

楽屋に戻り、着替え。スケジュールの確認。予定の時間通りに進んでいるようです。と言いますか、予め宮内庁に提出した時間通りに進まないといけないそうです。こういったレクチャーコンサートは、しばしば時間が長くなる傾向があるので、逆に良かったのかもしれません。

ちょっと時間があったので、廊下をぶらぶらしていると、藤原先生にお会いすることが出来ました。だが、ここでちょっとした問題が発生。普通、新曲を披露する場合、作曲者が会場(客席)にいるときには、指揮者が作曲者を紹介し、作曲者は、それに応え、席を立ち挨拶をするのが慣例なのですけれど、これを皇后陛下にやっていいのかということでした。私が事前に伺った限りでは、藤原先生の紹介だけにとどめることになっていたのです。でも、よく考えてみると、藤原先生を紹介しておいて、作曲者である美智子様を紹介しないのは変なのですね。でも、やっていいものかどうか判断ができません。

藤原先生は、詳しくは書けませんが、「美智子様は、そういった嬉しいハプニングは好きだから、やっても構わないのでは?」というようなニュアンスのことをおっしゃったのですが、私一人が責任を負えば済むことであれば、嬉々としてやるでしょうが、万が一、主催側に迷惑がいってしまったら取り返しのつかないことになります。急いでステマネのSさんに相談することに。主催側では、既にそのことについて話がされていたらしく、主催側の判断で「しない」ことにしていたらしいのですが、できればやりたい。恐れ多いことではあるけれども。

すぐに陛下のお付の方に相談に行っていただくことにし、本番中にでも結果が分かれば、そのように対応することにしました。

15:50、合唱団に集合してもらい、舞台袖に待機。いよいよ本番です。


続く

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皇后陛下の御前で演奏

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今まで色々なしがらみがあり話題に出せなかったのですが、終わりましたので、ご報告したいと思います。

3月25日、上野の旧奏楽堂で、サン=テグジュペリの「星の王子さま」を日本で最初に翻訳した、内藤濯(ないとう・あろう)を偲ぶレクチャーコンサートがあったのですが、その中で、皇后陛下・美智子様が作曲された歌曲「星の王子の・・・」(女声合唱編曲:藤原義久先生)の初演指揮をしてきました。しかも、皇后陛下の御前で・・・ものすごく緊張しました。

この話は、僕が指揮をしている東京薬科大学合唱団のOBである、Iさんからいただきました。Iさんの奥様(も、OGです)が内藤濯の親族だそうで、その縁で私に来たのですが、最初お話をいただいたときに、割合軽い気持ちで受けたのですよ。それが、こんなに大変なことになるとは・・・この段階では、美智子様がいらっしゃるなんて聞いてなかったですから(笑)

今回は、特別編成の女声合唱団(アンサンブル・ヴィオレ)です。演奏曲は、美智子様の曲を含め計4曲なのですが、藤原義久先生の新作が1曲(曲名:「相聞」)、残り2曲(シューベルトの「子守唄」・サン=サーンスの「月光」)も今回のための新編曲。ようするに、全部初演って訳です。ちなみに藤原義久先生は、皇室の方々に音楽の手ほどきをされている方です。

練習回数が5回しかなかったため、音取りについては、各自でやっていただくことにし、初回から曲の構築に入ったのですが、合唱団は寄せ集め、しかも私が初めて会う方ばかりだったので、初回・2回目の練習は散々でした。う~む、やはり合唱は難しいなあと改めて認識させられたのですが、3回目の練習でようやく光が見え始め、その勢いで何とか合唱と呼べるものになってきました。回数を重ねることによって、合唱団の中での自分のポジションが分かっていき、お互いの連携が出来ていく。その中で、この集団としてできる音楽を模索していく。ポッと集まったドリームチームが必ずしも最強ではないように、熟成が必要なんです。指揮者は、自分が思い描く音楽に反応してくれているほど、振り方が単純になっていき、理想的には、ただ拍子を与えているだけになる。C・クライバーのように、拍子さえ振らなくなってくる(笑)のだけれども、そうそう上手く運ぶわけがない。出席率については厳しくさせてもらったのだけれども、(快くかは分からないけれども)理解を示してくれた方が多くいたので、それが救いだった。参加された方々も、1回1回の練習ごとに、はっきりと分かるくらいに各自で努力されていたのが感じられたので嬉しかった。如実に変わってくるんですよね、奏でる音が。幸せな気分になるし、感謝の気持ちでいっぱいになる。実は、3回目の練習からは、思い切って眼を瞑らなきゃいけないと決めたことはあったのだけれども、5回目の最終練習には、納得できる音楽ができたように思う。

さて、当日。11時に現地入り。記念にと思って、写真をパチリ。これから長い一日の始まりです。

ちょっと長くなったので、続くにします。

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